衝撃加速度計測におけるデジタルローパスフィルタの適正設定とは

デジタルローパスフィルタとは

 デジタルローパスフィルタ(以降、フィルタ)とは、デジタル信号に対して、解析に必要な周波数成分をろ過する(=不要な高い周波数帯の成分を減衰させる)信号処理のことで、ソフトウェア上で実行されます。
 空気清浄機で例えると、汚れた空気(フィルタ通過前の信号に相当)が、空気清浄機(フィルタに相当)を通過しすることで、きれいな空気(フィルタ通過後の信号に相当)になるようなイメージです。
 ここでカットオフ周波数(または遮断周波数)とは、フィルタ処理時にどの範囲の周波数成分を減衰させるかを示す周波数のことです。たとえば、カットオフ周波数100Hzとは、信号のなかに含まれるすべての周波数のうち、100Hz以上の周波数を減衰させることになります。言い換えると、フィルタ処理後の信号は100Hz以下の周波数成分のみが残ることになります。(厳密にはカットオフ周波数よりも低い周波数から減衰ははじまり、またカットオフ周波数以降の周波数成分も完全に0にすることはできませんが、ここでは便宜上の表現にしています。詳細は専門書をご参照ください。)
 さて、振動・衝撃計測において加速度ピックアップから出力された信号は、通常、幅広い周波数を含む波形として記録されるため、本来発生した信号に加えて、不要なノイズも含まれます。そこで、本来発生した信号を抽出する目的でフィルタ処理が行われます。ここでは、主に落下試験、衝撃試験のなかで計測される衝撃加速度におけるフィルタ処理について解説します。

落下・衝撃試験による衝撃加速度計測

 落下試験では、特に包装貨物落下試験用途において包装内部(製品)の衝撃加速度が計測され、包装設計の合否判定が行われています。また衝撃試験では、衝撃テーブル上に発生する衝撃加速度を計測することで、衝撃試験管理(要求する衝撃パルスが発生できているかどうかの確認)が行われています。
 このような用途で衝撃加速度を計測すると、正弦半波状の加速度波形が得られますが、フィルタ処理上のカットオフ周波数はどのように設定すればよいでしょうか。下の図は、同一の衝撃パルス(実験値)に対し、ソフトウェア上で異なるカットオフ周波数(図中ではfcと表記)を適用した例ですが、カットオフ周波数によって波形は大きく異なります。最大加速度に注目すると、カットオフ周波数と最大加速度には比例関係がみられます。このことは、最大加速度のみで設計の合否判定を行う場合に、カットオフ周波数の設定によっては結果が異なることを示唆しています。

衝撃加速度計測におけるカットオフ周波数の適正設定とは

 衝撃加速度計測におけるカットオフ周波数の推奨設定は、JISZ0119包装及び製品設計のための製品衝撃強さ試験方法やJISZ0235包装用緩衝材料-評価試験方法に記載があります。これら規格によると、カットオフ周波数は、衝撃パルスの作用時間からなる基本周波数の5倍以上とすることが望ましいとあります。計算式は下記を参照してください。

fc≧5/(2D)
 fc:カットオフ周波数(Hz)
 D:衝撃パルスの作用時間(s)

 ただし、この方法だと上限値はわからないので、カットオフ周波数を大きくしすぎると波形にノイズが多く残ってしまい、データの判断に問題が発生するかもしれません。このような課題に対する1つのアプローチとして、衝撃応答スペクトルの活用が提案されています。

 詳しい内容は、下記からダウンロードできる資料をご確認ください。